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彼女アあの日ネ
木の芽コ取ネ行た路コ
其處ネ山鳩コア啼いで居だキヤなア
蕗コ取ネ行タ澤コ
其處ネ郭鳥啼いで居だキヤなア
彼女ア始めで返事コした川端コネ
野茨の匂コアして居だし
彼女ア言ふごと聞えだ松林の中ネ
鶸コア啼いて居だキヤなア
ああ こたらだごとア みんな消ががてるいま
東京の真中でこの人通り激し晩方ネ
俺ネつぐづぐどわがて來たのア
彼女アあの日ネ あの林コがら歸る途中
たんぽぽの花コバふむつり
ふむつり投げだ気持コだでばせナ
***
彼女はあの日
木の芽を取りに行った道
あそこでは山鳩が啼いていたよな
蕗を取りに行った沢地
あそこでは郭公が啼いていたよな
彼女が初めて返事をした川端では
野薔薇の香りがしていたし
彼女が言うことを聞いた松林の中では
鶸が啼いていたよな
ああ こういったことすべてが 消えかかっている今
東京の真ん中のこの人通りが激しい夕方に
俺につくづくとわかってきたのは
彼女があの日 あの林から帰る途中
たんぽぽの花をちぎり
ちぎり投げ捨てていた気持ちなんだよな
☆☆☆
苗代の稻妻
蛙ア啼いで苗代サ稻妻あ光て來たンども
彼女ア未だ出はて來ねネ
終々ネ雨ア降て來て俺ジヨウジヨウどなてまたンども
此處から何時迄も動ぎたぐねデア
段々と雨ア強ぐなて來たハデ
蛙も啼がなぐなてまたし
夜ア更けで來たどメデ
彼女の家の灯コも消でまたデア
***
苗代の稲妻
蛙が啼いて苗代に稲妻が光ってきたけれど
彼女はまだ出てこないんだ
ついには雨が降ってきて俺はびしょびしょになってしまったのだが
ここからいつまでも動きたくないんだ
だんだん雨が強くなってきたので
蛙も啼かなくなってしまったし
夜も更けてきたようで
彼女の家の明かりも消えてしまったんだ
☆☆☆
生活 ―結婚の晩―
あれア風ア吹いで
ドロの樹アジヤワめでるんだネ
泣グな
泣グな
花嫁ア泣グ奴アあるガ
銭コねはで泣グのガ
なんだて こした貧ボくせい結婚せねばまいねのガ
(みんな飯事だど思れ)
痩へだ体コくつけでも
なんも温ぐぐねジヤ
ああ 俺達二人ア
日あだりぬすむ蠅コど同しだ
明日がらお前も紫の袴コはいで黒いまんとコかぶて役所サ行グのガ
貧ボ臭い婿ど花嫁だ
泣グな
泣グな
なんも恐グね
あれア風ア吹いで
ドロの樹アジヤワめでるんだネ
***
生活 ―結婚式の日の夜―
あれは風が吹いて
ドロの木がざわめいているんだ
泣くな
泣くな
花嫁なのに泣くやつがあるか
お金がないからといって泣いているのか
どうして こんなに貧乏臭い結婚式を挙げなければならないのか
(みんなこれが祝言だと思ってください)
やせたからだをくっつけてあわせても
全然暖かくならないよ
ああ 俺たちふたりは
陽光をかすめとる蠅と同じようなものだ
明日からお前も紫の袴をはいて黒いマントを着て役所に行くのか
貧乏臭い婿と花嫁だ
泣くな
泣くな
何も怖いことはない
あれは風が吹いて
ドロの木がざわめいているんだ
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