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陽コあだネ村 ―津軽半島袰月村で―
この村サ一度だて
陽コあだたごとあるがジヤ
家の土臺コアみんな潮虫ネ嚙れでまてナ
後ア塞がた高ゲ山ネかて潰されで海サのめくるえンたでバナ
見ナガ
あの向の陽コあだてる松前の山コ
あの綺麗だだ光コア一度だて
俺等の村サあだだごとあるがジヤ
みんな貧ボ臭せくてナ
生臭せ体コしてナ
若者等アみんな他處サ逃げでまて
頭サ若布生えだえンた爺媼ばりウヂヤウヂヤてな
ああ あの沖バ跳る海豚だえンた忰等ア
何處サ行たやだバ
路傍ネ捨られでらのアみんな昔の貝殻だネ
魚の骨コア腐たて一本の樹コネだてなるやだナ
朝モ昼もたンだ濃霧ばりかがて
晩ネなれば沖で亡者泣いでセ
陽の当たらない村 ―津軽半島袰月村にて―
この村には一度でも
陽の光が当たったことがあるのだろうか
家の土台は全部潮虫にかじられてしまって
後ろの方はのしかかる高い山に潰されて海にのめりこむようではないか
見ろよ
あの海の向こうの陽が当たる松前の山
あんなにきれいな光がただの一度でも
私たちの村に当たっていたことがあるだろうか
みんな貧乏臭くて
生臭いからだをして
若者たちはみんなよそに逃げてしまって
頭にわかめが生えたようなじいさんばあさんばかりがウジャウジャしていて
ああ あの沖を跳ねる海豚のような息子たちは
どこに行ったと云うのだろうか
路傍に捨てられているものはすべからく昔の貝殻なのだ
魚の骨が腐ったらそれが一本の木になるとでもいうのか
朝も昼もただ霧がかかるばかりで
夜になれば沖で亡者が泣いているのさ
風ネ逆らる旗
檣の先コで ばためでる旗やエ
いま俺 生れだ町バ捨てで行ぐんだ
雪溶げの風コア耳サ冷ぐ
葉コ無い柳の枝コア岸ネ震でらネ
ああ其處ネだキヤ 見送る人の影コも見ねし
遠ぐネ寺の屋根コア光てらネ
ああ俺生れだ町!
それだキヤもう狭苦しぐなてまた搖籃だネ
この愛想気無い町の顔バ見なガ
繼母だキヤえネ嘲笑てナ
ああ いまごそみんなバ捨てまるど思ふンどもなア
ばためぐ旗やエ!
自分の指コバ切ぐえンたのア
如何た気残りアあるやだバ
汽笛ア鳴たジヤ
もうこれで みんな終たのせ
舳ア廻はたら生れだ町サ尻向げでまたネ
沖サ出はれバ風ア強ぐ
ああ ばためく旗やエ
ジヤワめぐ海サ
裂げで飛ばされでしまれ!
風に逆らう旗
帆柱の先で はためいている旗よ
いま俺は 生まれた町を捨ててゆくのだ
雪解けの風は耳に冷たく
葉のない柳の枝が岸に震えている
ああ、そこには 見送るひとの影も見えなければ
遠くに寺の屋根も光っている
ああ、これが俺の生まれた町なのだ!
俺にはもう狭くなってしまったゆりかごなのだ
この無愛想な町の顔を見ろよ
継母のような顔をしてあざわらっているじゃないか
ああ 今こそ全部捨ててしまおうと思っているのに
はためく旗よ!
どうしてこんな
俺の指をもぎとるような心残りがあるのだろうか
汽笛が鳴った
もうこれで みんなおしまいなのだ
舳が廻ると船は俺の生まれた町に尻を向けてしまった
ああ はためく旗よ
ざわめく海に
ちぎれて飛ばされてしまえ!
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