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dimanche 23 mars 2008

陽コあだね村 ― 風ネ逆らる旗

(Furigana optimized with IE)


()コあだネ村 ―津軽半島袰月村で―


この村サ一度(イヅド)だて

()コあだたごとあるがジヤ


()土臺(ドデ)コアみんな
潮虫(スヲムス)()れでまて

(ウスロ)(フサ)がた()ゲ山ネかて(ツブ)されで海サのめくるえンたでバナ

見ナガ

あの(ムゲ)()コあだてる松前(マヅメ)の山コ

あの綺麗(キレ)だだ(シカリ)コア一度(イヅド)だて

俺等(オランド)の村サあだだごとあるがジヤ

みんな貧ボ臭せくてナ

生臭せ体コしてナ

若者等(ワゲモノンド)アみんな他處(ホガ)()げでまて

(アダマ)若布(ワガメ)生えだえンた爺媼(ジコババ)ばりウヂヤウヂヤてな

ああ あの(オギ)(ハネ)海豚(エルガ)だえンた忰等(ヘガレンド)

何處()サ行たやだバ

路傍(ケドバダ)(ナゲ)られでらのアみんな昔の貝殻(ケカラ)だネ

(サガナ)(トゲ)コア腐たて一本の樹コネだてなるやだナ

(アサマ)(スルマ)もたンだ濃霧(ガス)ばりかがて

(バゲ)ネなれば(オギ)亡者(モンジヤ)泣いでセ


***


陽の当たらない村 ―津軽半島袰月村にて―


この村には一度でも

陽の光が当たったことがあるのだろうか


家の土台は全部潮虫にかじられてしまって

後ろの方はのしかかる高い山に潰されて海にのめりこむようではないか

見ろよ

あの海の向こうの陽が当たる松前の山

あんなにきれいな光がただの一度でも

私たちの村に当たっていたことがあるだろうか

みんな貧乏臭くて

生臭いからだをして

若者たちはみんなよそに逃げてしまって

頭にわかめが生えたようなじいさんばあさんばかりがウジャウジャしていて

ああ あの沖を跳ねる海豚のような息子たちは

どこに行ったと云うのだろうか

路傍に捨てられているものはすべからく昔の貝殻なのだ

魚の骨が腐ったらそれが一本の木になるとでもいうのか

朝も昼もただ霧がかかるばかりで

夜になれば沖で亡者が泣いているのさ


☆☆☆


(カジエ)(サガ)らる(ハダ)


檣の先コで ばためでる(ハダ)やエ

いま() ()れだ(マヅ)バ捨てで()ぐんだ

雪溶(ユギド)げの(カジエ)コア耳サ(ツブテ)

葉コ()い柳の枝コア岸ネ(フレ)でらネ

ああ其處(ソゴ)ネだキヤ 見(オグ)(フト)の影コも()ねし

遠ぐネ寺の屋根コア(シカ)てらネ

ああ()()れだ(マヅ)

それだキヤもう狭(クラ)しぐなてまた搖籃(イツコ)だネ

この愛想気(アイソケ)()(マヅ)(ツラ)バ見なガ

繼母(ママカガ)だキヤえネ嘲笑(アジヤワラ)てナ

ああ いまごそみんなバ()てまるど思ふンどもなア

ばためぐ(ハダ)やエ!

自分の指コバ()ぐえンたのア

如何(ドシ)た気残りアあるやだバ


汽笛(ジヨウキ)ア鳴たジヤ

もうこれで みんな(トツパ)たのせ

(ヅグ)ア廻はたら()れだ(マヅ)(ケツ)向げでまたネ

(オギ)サ出はれバ(カジエ)(ツオ)

ああ ばためく(ハダ)やエ

ジヤワめぐ海サ

(ブチヤ)げで飛ばされでしまれ!


***


風に逆らう旗


帆柱の先で はためいている旗よ

いま俺は 生まれた町を捨ててゆくのだ

雪解けの風は耳に冷たく

葉のない柳の枝が岸に震えている

ああ、そこには 見送るひとの影も見えなければ

遠くに寺の屋根も光っている

ああ、これが俺の生まれた町なのだ!

俺にはもう狭くなってしまったゆりかごなのだ

この無愛想な町の顔を見ろよ

継母のような顔をしてあざわらっているじゃないか

ああ 今こそ全部捨ててしまおうと思っているのに

はためく旗よ!

どうしてこんな

俺の指をもぎとるような心残りがあるのだろうか


汽笛が鳴った

もうこれで みんなおしまいなのだ

舳が廻ると船は俺の生まれた町に尻を向けてしまった

ああ はためく旗よ

ざわめく海に

ちぎれて飛ばされてしまえ!

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