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lundi 24 mars 2008

煤けだ暦 ― 凶作 ― 海猫 ― 石コ

(Furigana optimized with IE)


煤けだ暦


姉サ嫁ネなて()()

(ツボ)のぐみア真赤であたし

母親(オガ)サ死ンで()()

濡雪(ヌレユギ)ア降てゐだんだド

父親(オド)サ死ンで()たのア

屋根の(スガマ)コア()げかがてゐた(ドギ)だし

()()がら出ハてしまつた(バゲ)

宵祭(ヨミヤ)の花火アあがてゐだネ


***


煤けた暦


姉さんが結婚していなくなった日には

坪庭のグミの実が真っ赤だったし

母さんが死んでいなくなった日には

濡れ雪が降っていたらしい

父さんが死んでいなくなったのは

屋根の氷が溶けかけていた頃で

俺が家を後にした夜には

宵宮の花火が上がっていた…


☆☆☆


凶作(ケガズ)


いまネも(ユギ)ネなるえンたこの(ツブ)て雨、そしてこの瘠へだ稻。

そイでもウルセ雀共(スズメンド)バ石油罐ぶただいで()ネバまいネンだネ。

海ア時化(シケ)でるどメで海猫(ゴメ)(アヅバ)て來て啼いでるジヤ。

親爺(オド)アガツホラどした(ツラ)して紡績(ボセキ)サ行た(アネ)の手紙バリ讀ンでるし、

母親(オガ)まだ(ハダケ)がら(フラ)てきた屑芋バ煮べどもても(ヘツツ)ア燃えネで(イプ)てグ

燐寸(トツケギ)だキヤもう()んだジヤ

(ケブ)()の中サ一()ネなて赤子(ビキ)アギーギーて泣ぐし、まンだかちやくちやネイ(バゲ)ネなるんだべネ。


***


凶作


今にも雪になりそうなこの冷たい雨、それにこの瘠せた稲。

だというのにうるさい雀らを石油罐を叩いて追い払わねばならないのだよ。

海は時化ているらしく、海猫が集まってきて啼いているではないか。

父さんは間抜け面して紡績工場に行った娘の手紙ばかりを読んでいるし

母さんはといえば畑から拾ってきた屑芋を煮ようと思ってもかまどは燃え上がらずにいぶり

マッチはもうないのだよ

煙が家の中に一杯になって赤ん坊はギャーギャー泣くし、また今日も最低の夜になるんだろうな。


☆☆☆


海猫(ゴメ)


(オギ)時化(シケ)でホレ

(ジヨジヨ)()れネんだド

母親(オガ)ドサ()たやだばシテ

居間(ジヨイ)赤子(オボコ)ア泣いでさネ

らんぷコでもツケシネが


***


海猫


沖は時化ていてね

魚が獲れないんだってさ

母さんはいったいどこに行ったんだよ

居間で赤ん坊が泣いているんだ

らんぷでもつけたらどうだい


☆☆☆


石コ


すねくれだ心だデア

踏付(フンヅケ)られでも黙つてる石コ


じつとしてだら石コネなねべがな


めめづわぐえンた流元(ミジヤノスリ)の暮し


(ワイ)バあの空サ(ムゲ)で投げる(ヤヅ)アネベがな


***



ひねくれた心だねえ

踏みつけにされても黙っている石とは


じっとしていたら石にならないものだろうか


みみずがわくような流しの下の暮し


俺のことをあの空に向けて投げる奴はいないものだろうか

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