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煤けだ暦
姉サ嫁ネなて去た日ア
庭のぐみア真赤であたし
母親サ死ンで去た日ア
濡雪ア降てゐだんだド
父親サ死ンで去たのア
屋根の氷コア溶げかがてゐた時だし
吾ア家がら出ハてしまつた晩ア
宵祭の花火アあがてゐだネ
***
煤けた暦
姉さんが結婚していなくなった日には
坪庭のグミの実が真っ赤だったし
母さんが死んでいなくなった日には
濡れ雪が降っていたらしい
父さんが死んでいなくなったのは
屋根の氷が溶けかけていた頃で
俺が家を後にした夜には
宵宮の花火が上がっていた…
☆☆☆
凶作
いまネも雪ネなるえンたこの冷て雨、そしてこの瘠へだ稻。
そイでもウルセ雀共バ石油罐ぶただいで追ネバまいネンだネ。
海ア時化でるどメで海猫ア群て來て啼いでるジヤ。
親爺アガツホラどした顔して紡績サ行た娘の手紙バリ讀ンでるし、
母親まだ畑がら拾てきた屑芋バ煮べどもても竃ア燃えネで燻てグ
燐寸だキヤもう無んだジヤ
煙あ家の中サ一杯ネなて赤子アギーギーて泣ぐし、まンだかちやくちやネイ晩ネなるんだべネ。
***
凶作
今にも雪になりそうなこの冷たい雨、それにこの瘠せた稲。
だというのにうるさい雀らを石油罐を叩いて追い払わねばならないのだよ。
海は時化ているらしく、海猫が集まってきて啼いているではないか。
父さんは間抜け面して紡績工場に行った娘の手紙ばかりを読んでいるし
母さんはといえば畑から拾ってきた屑芋を煮ようと思ってもかまどは燃え上がらずにいぶり
マッチはもうないのだよ
煙が家の中に一杯になって赤ん坊はギャーギャー泣くし、また今日も最低の夜になるんだろうな。
☆☆☆
海猫
沖ア時化でホレ
魚ア獲れネんだド
母親ドサ行たやだばシテ
居間で赤子ア泣いでさネ
らんぷコでもツケシネが
***
海猫
沖は時化ていてね
魚が獲れないんだってさ
母さんはいったいどこに行ったんだよ
居間で赤ん坊が泣いているんだ
らんぷでもつけたらどうだい
☆☆☆
石コ
すねくれだ心だデア
踏付られでも黙つてる石コ
じつとしてだら石コネなねべがな
めめづわぐえンた流元の暮し
俺バあの空サ向で投げる奴アネベがな
***
石
ひねくれた心だねえ
踏みつけにされても黙っている石とは
じっとしていたら石にならないものだろうか
みみずがわくような流しの下の暮し
俺のことをあの空に向けて投げる奴はいないものだろうか
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